恋愛・結婚

最大の悩みのひとつ

 恋愛・結婚は、FDの方にとって、就職・仕事と並ぶ最大の悩みのひとつではないでしょうか。

 この悩みは、FDでない人にはちょっと想像がつきにくいと思いますが、「人と一緒に食事ができない」ということは、恋愛のハードルが絶望的に高くなる(と感じられる)ことですよね。

 気になる異性に声を掛けるとき、例えば「お昼でも行かない?」と誘うのがいちばん自然でしょう。あるいは、「おいしいと評判の店があるんだけど、友達を誘って一緒にどう?」とか。いざデートに持ち込んだとして、昼食も晩ごはんも、まったく食事を伴わないデートばかり続けることはかなり難しいです。

 FDの方は、好きな人がいても、どうせ自分には無理だという考えが先に立ち、初めから諦めてしまう、という方が多いのではないでしょうか。私もそうでした。まして、自分がいつか結婚して家庭を持つなどということは、ほとんど想像できないというか、絶望的に思えたものです。

 そんな自分でしたが、いくつかのハードルを乗り越え、今は家庭を持ち、子どももいます。ここに至るまでのことを、少し振り返ってみたいと思います。

子ども心にも…

 小中学校までは、FDと恋愛について深刻に悩むことは、それほどないかもしれません。それでも、好きな人ができたりすると、人といっしょに食事ができない自分がふがいなく思えたり、将来自分が恋愛したり結婚したりするのは無理なのではないか、という悲しみにとらわれたりするのではないでしょうか。

 私は、中2の頃、クラスの子に初恋をしたのですが、他のクラスメートがその子のことを好きだと公言していたため、「あんな奴のどこがいいんだ」などと強がっていました。でも内心では、食事ができない自分は、今後ずっと、好きな子に対して好きと言えないんだろうと考え、暗くなった帰り道、自転車に乗りながら急に涙がこみ上げた経験があります。当時は我ながら情けないと思いましたが、若いなりに深刻に悩んでいたんだと思います。

 

 高校でも、それなりに恋の悩みはありましたが、自分の周りで恋愛が話題になることもそれほどなかったように思います。特に思い出すことと言えば、「学校・学生生活」のページに書きましたが、女の子に呼び出されて家庭科の授業で作ったチョコレートケーキを渡され、その場で食べて欲しいと言われ往生したことでしょうか。まあ、苦い思い出といったところです。

悩める大学生活

 恋愛についての悩みが自分のものとして切実に感じられるようになったのは、やはり大学生になってからです。好きになった女の子はいましたが、何せ先のことを考えると誘いようがない。まずは皆で一緒でランチにでも行きたいところですが、食べられないことは目に見えているので絶対無理です。私ははなから、本当に好きな女性ができても、まともに声をかけることは自分にはできないと思い、諦めていました。

 

 この頃気付いたのですが、私は会食するメンバーの中に同年代の女性がいると、いつも以上に症状が出やすいようでした。女性に格好悪いところを見せたくない、という心理や、「男だからたくさん食べるのが普通と思われているが、自分には無理」という心理が働いて、症状を強くしていたのだと思います。女性に慣れれば、少しは症状が良くなるかもしれないという思いがあったのと、半ば投げやりになっていたこともあり、誤解を与えるような行動をとってしまったこともありました。

 

 大学生ともなると、「彼女(彼氏)」がいるかどうか、というのは友人間でも最大の関心事のひとつです。それに、将来自分が結婚できないかもしれない、という不安が現実として感じられる頃でもありました。20代ともなると、「体験」の有無を競っているようなところがありましたし、「慣れ」が解決するかもしれないとも考え、ファストフードのアルバイトで知り合った、失恋したばかりというろくに好きでもない女性と少し付き合ったこともあります。当時、ウインドサーフィンをしていたこともあり、一緒に海に行ったりしましたが、食事を一緒に出来ないのでどうしても不自然なデートになってしまいます。かろうじてファミレスに行ったこともありましたが「おじや」を単品で頼むのが精一杯。「おいしいスパゲッティ屋さんができたんだって。今度行こうよ」と言われても、生返事をするしかない。もともと互いに心から好きだった訳でもなく、恋愛ごっこはほとんど続きませんでした。まともに女性と付き合おうとしたら、「人と一緒に食事が出来ない」自分の症状のことを告白しないわけには行かないという事実を、この時改めて理解した気がします。

パートナーとの出会い

 現在の妻と出会ったのは、就職活動の時です。同じ出版社の受験会場で出会い、声を掛けたのがきっかけで、その後会うようになりました。しかし、お茶を飲むことはできても、ものが食べられない。初めの頃のデートでは、遅くまで一緒にいてもファーストフード店やせいぜい居酒屋に行く程度で、レストランには行けないので、いつもお腹をすかせていた気がします。彼女も不思議に思ったのではないでしょうか。ファーストフードですら食べられず、彼女がトイレに立った隙にゴミ箱に捨てたこともあります。

 

 彼女のことを好きになるにつれ、自分の気持ちをきちんと彼女に伝えたいと思いました。しかし、まともに付き合うためには、どうしても会食恐怖症のことを伝える必要があります。「人と一緒に食事ができない」などという、聞いたこともない奇妙な症状を告白したら嫌われるだろうと思い、悩みました。何せ症状のことは、家族にも話したことがありません。自分は会食恐怖であるがゆえまともに恋愛をしたこともなく、初めての本気の恋愛なのに、彼女を失うかもしれないという恐れで一杯でした。

 

 しかし、悩んだ挙句、ある夜思い切って彼女に付き合って欲しいと伝えました。そして自分の症状のことを話し、そんな自分でも良ければ後日連絡して欲しいと伝えましたが、「これでおしまいだ。もう連絡もないだろう」と思ったのを覚えています。情けないことに、家に帰ってからひどく泣けました。

 

 結果的に、彼女は了解してくれたのですが、後で聞くと、私の言った意味がわからず、「付き合いたくない」ということなのかと思ったそうです。何だか拍子抜けですね。でも、彼女と付き合いはじめたことで、初めて自分の症状のことを理解している人ができたわけです。このことは、自分の中で大きな力になりました。自信が生まれ、症状が少しずつですが改善したように思います。相変わらず食事は、居酒屋やコンビニ中心でしたけれども。

 

 結果論かもしれませんが、本当に大切な人には、勇気をもって事実を伝えるより、解決の方法はないのだろうと思います。

新しい家族

 彼女とはその後、遠距離恋愛などのハードルを乗り越え、数年の付き合いを経て結婚に至ったわけですが、そこに至るまでの最大のハードルのひとつが、相手の家族に自分の症状をどう伝えるか、ということでした。

 

 結婚に至るまでには、当然、相手の家を訪れる必要もありますし、相手の両親と向き合う必要があります。何より、相手の家に行って食事を出された時にどうしよう、という不安やら、自分の症状をどう説明したら分かってもらえるのかという悩みやら、そもそもそんな「病気」の男との結婚は認めない、と言われたらどうしようかとか、心配は山ほどありました。

 

 何せ相手の父親は、カナリおっかない人でそのうえ大食いだと常日頃聞かされていましたし、家に電話して運悪く父親が出ると(当時は携帯電話などという便利なものはなかったんです)、電話口の向こうで、「おい!××から電話!」と私の名前を呼び捨てにしているのが聞こえたくらいでしたから。

 彼女は、わざわざ親に言う必要はないのではないか、と言いましたが、私は、告白しないことにより想定されるさまざまな状況を考えると、信頼を失わないためにも絶対伝える必要がある、と決めていました。

 

 私が話した時、父親は、「まあ、緊張して下痢する人もいるし、そういうものの一種だろう」とかなんとか言い、それ以上そのことについて触れることはありませんでした。きっと、本当に大丈夫なのか、という気持ちもあったのでしょうが、正直に話をしたことで、少しは私という人間を、良しにつけ悪しきにつけ理解してくれたように思います。

 彼女の両親に事実を伝えたことで、心のハードルがまた少し低くなり、その後食事をいただく機会もありましたが、比較的症状が軽く済むようになりました。

 

 その後、結婚式をするにあたっても、披露宴で皆の前で食事するのは嫌だとか、はやりの「ファースト・バイト」とかでウエディングケーキを人前で互いの口に入れ合うなんて絶対無理とか、普通の人なら気にもならないことがいちいち引っかかりましたが、互いの転勤で遠距離結婚だったこともあり、海外で親戚と親しい友人を招いて行うことで、事なきを得ました。

恋愛とどう向き合うか

 FDの方にとって、恋愛はとても高いハードルに感じられることと思います。

 私の場合は、最終的にはうまくいきましたが、やはり本当に好きになった相手には自分の症状を伝えなければはじまらないように思います。

 

 そうは言っても、簡単に伝えられるようなことではありませんよね。会っていきなり症状を告白するわけにもいかないので、そこに至るまでの付き合い方もいろいろ難しいでしょう。

 自分は、告白する前は、屋外でコンビニのおにぎりを食べたり、海辺でポータブルのバーナーを使ってコーヒーを沸かしてみたり、比較的症状が目立たない居酒屋を活用したりしていましたが、食事抜きのデートには結構苦労しました。

 症状を告白してきちんと付き合うようになってからも、最初は彼女の手料理が食べられるか不安だったこともあり、まずは自分が料理を得意になろうと、パスタを作ったり時にはパンを焼いたり、逆に食べさせる側に回るように心がけていました。 そのせいか、今でも妻だけでなく自分がキッチンに立つのがごく普通になっているという重い副作用?がありますが…。

 

 大切な誰かに自分の症状を伝える必要が生じた時、紹介いただけるようなサイトになることが、このサイトを作った目的の一つです。果たしてそんなお役に立てる時があると嬉しいのですが。

 

 自分の症状を理解してくれる人がいるというのは、FDと生きていく上で確実に大きな力になります。FDに悩む方が、理解のあるパートナーを得られることを心底願わずにはいられません。

 皆さんは、どうお考えですか。

 

経験談をお寄せください。