失敗談

三歩進んで、二歩下がる?

 FD(会食恐怖症)と付き合っていると、たまに、思い出したくないような失敗をすることがありませんか。

 何とかしようと前向きにトライするほどに、失敗に遭遇する確率もおのずと高くなりますよね。

 反対に、成功の体験というのは、「大成功」という感じがあまりしないものなので、小さな成功体験をこつこつと積み上げているイメージでしょうか。三歩進んで、二歩下がる、というのが私の実感です。

気を使ってしまうからこそ

 会食恐怖で厄介なのは、自分が症状(反応?)と戦わなければならないだけでなく、時に「人を傷つける」「人の気分を害する」かもしれない場面に遭遇するということです。

 自費で外食する場合はともかく、人におごってもらうケースや、人の家で食事を出していただく場合のほか、披露宴などのおめでたい席や、「おいしい店」に連れて行ってもらった時など、食べられなかったら相手に失礼に当たる場合は特に緊張しますよね。そういう時に限って、緊張の度合いが高いゆえに症状が強く出て、失敗することも多くなりがちです。 

 「食べなければ失礼にあたる」ということをFDの人自身がいちばん強く感じてしまっているからこそ、症状が出てしまうのですが、にもかかわらず「もったいない」とか「失礼だ」と思われてしまいかねないのは、本当に辛いところです。

 

 こんな時、相手に事情を知ってもらえたらどんなに楽かと思いますが、何も知らない相手にいきなりFD(会食恐怖症)について説明を始めるのはなかなか難しいでしょうから、いきおい「今日は調子が悪くて」などと言い訳をして、冷や汗をかきながらその場をしのいだ経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

最悪の体験

 私もいくつもの失敗をしてきましたが、特に苦い記憶として残っている経験のひとつは、友人の家に招かれた時のことです。学生時代の友人が結婚し、新婚家庭にひとり招かれたのですが、そこで出された新婦お手製の料理を、途中まで何とか食べたもののどうしても食べきれず残してしまったことがありました。

 調子が悪いとかなんとか言いながら、友人とその奥さんへの申し訳なさで一杯でした。「とても美味しかったから、レシピを教えてほしい」、などと言って取り繕いましたが、とても気まずい思いをしました。今思えば、相手にいやな思いをさせないよう、あらかじめ説明すべきだったのかもしれませんが、なまじ友人相手に、いきなりカミングアウトするというのも、かえってハードルが高いものに感じてしまいます。

 

 他にも失敗はたくさんありますが、思い出しても冷や汗が出る最悪の体験があります。

 恥を晒すようですが、あれは札幌に出かけた時のことです。妻と、一時遠距離結婚状態だった私は、時々札幌に出かけたのですが、休みが合わない時は一人で市内を探索していました。昼食をひとりで取ることになりますので、ある時、思い切ってファーストフードなどではない店に行ってみようと考え、それまで比較的症状の出にくかった麺類を選び、チャレンジのつもりで人気のラーメン店に出かけてみることにしました。

 到着すると行列ができていたため、列に並びましたが、悪いことに、待っているうちに次第に不安が頭をもたげてきました。店内を観察すると、どうやら連れのいない客はカウンター席に通されるらしく、店員の目の前で食べる羽目になるようでした。しかも、威勢の良いオヤジが店を仕切っている。混んでいるため、並んでいる客は黙って指定される席に座らなければいけません。しかもこってり系のラーメンだったため、そのうち油の匂いが気になりだしました。これはヤバいかな、店を出ようかな、と悩んでいるうちに席に通されてしまいました。コンディションは最悪です。目の前に脂っこいラーメンが出される頃にはすっかり「できあがった」状態になっており、手を付けようにもまったく口に入れられなくなっていました。

 

 こうなるともう最悪。周りに座った人がどんどん食べているのばかり気になりますが、こちらができるのは箸をどんぶりに突っ込んだり出したりすることだけです。山盛りのモヤシが減ることもなく、ただ麺が伸びていくだけ…。そろそろ周囲の目が気になってきます。威勢の良いオヤジが仕切る店の雰囲気と、混雑したカウンター、それに後ろで待っている客に気圧されてしまい、手を付けずに店を出ることが許されないように勝手に感じてしまい、もはや絶体絶命です。

 ・・・素直に店を出るべきだったのでしょう。しかし、そこで私は、自分の持ったバッグに、折り畳み傘を入れたビニール袋が入っていることに気付きます。もう、これしかないと思いました。バッグの中に袋を広げ、食べたふりをしながら少しずつ麺をビニールに入れるしかないと思ったのです。 今思えば、妙な思考回路に陥ったものだとつくづく馬鹿らしく思いますが、その時は必死でした。

 

 この馬鹿げた、アクロバティックな企みは何とか成功しました。どんぶりの汁に隠れるくらいの量を残して、膝の上のビニールに麺を入れ、何食わぬ顔で店を出ました。トイレのごみ箱に袋を捨てながら、気分はまるで犯罪者でした。もしあの時、店員に見られたらどうだったでしょう。「秘伝の味を盗むスパイか!」とつるし上げられでもしたでしょうか。本当に思い出すと冷や汗が出ます。

 

 このあとしばらく、無様な失敗に激しく落ち込んでしまい、しばらく外食ができなくなってしまいました。小学校の給食で、残したものを持ち帰らされた屈辱が蘇るようでした。比較的セーフだったラーメンですが、これ以来すっかり鬼門になってしまいました。

 

 実はこの数年後、別の店で「一人ラーメン」に再度トライし、自分の中のタブーを無くそうとしたのです。しかし、またしても大失敗に終わりました。この店は、調理する店員をぐるりと取り囲む形のカウンター形式で、店員と周囲の客が良く見えるつくりになっており、ハードルが高めでしたが、やはり待っている間に次第に緊張してしまい、出された時にはもう「一口もダメ」状態になっていました。結局、携帯に電話がかかってきたふりをして、店員の不愉快そうなつぶやきをあとに、一口も食べずに逃げるようにそのまま店を出ました。食券制の事前精算だったのが救いでした。

 

 何でもない人から見れば、こうしたドタバタは全く理解しがたく、さぞアホらしく思えることでしょうね。自分でも客観的に見てアホらしいと思うくらいですから。完全に一人芝居です。でも、一度「ヤバイ」と思うと、助けを求められるパートナーが一緒にいる場合はまだしも、どうしようもなくなることがあるのです。

 あれ以来、ひとりでラーメン屋に入るのは、まだほとんど無理です。おまけに、あの街の、あの店の前を通るのも何となく避けてしまいます。 こんな内なる(バカげた)葛藤、知っているのは、自分だけです。

 

 皆さんは、どんな苦い経験を秘めておられるのでしょうか。 ちょっと気になります。

 

経験談をお寄せください。